前髪を上げたとき、耳掛けしたとき、ヘアバンドをしたとき、あるいはオンライン会議で照明を正面から当てたときに、顔の中心は明るく映っているのに生え際とこめかみだけが急に沈んで見えることがあります。
おでこはきれいにツヤが乗っているのに、縁をなぞるように灰色・黄土色・ときには青っぽい帯が出るので「ファンデが合っていないのかな」「シェーディングを入れ過ぎたかな」と思いがちです。
しかし多くの場合は、肌色・産毛の色・髪色(あるいは地肌の透け色)が別々の“温度”で見えているだけです。肌は明るい黄み、産毛はややグレー、地毛は冷たい黒、さらにファンデーションがピンク寄り……と4層以上が重なると、人の目には「ここだけくすんだ」ように映ります。
しかもやっかいなのは、こうした境目は**“前髪を上げる日”ほど目立つ**ということです。就活・面接・証明写真・プロフィール撮影・七五三や卒入学の付き添い・和装・ダンスや舞台の本番など、きちんとしたい日の髪型こそ額を見せることが多く、このときに生え際が沈んでいると、せっかく整えたベースメイクやアイメイクが「疲れている」「写りが悪い」と評価されやすくなります。
逆に言えば、顔の縁をパーソナルカラーに合わせた“影色”で一段だけ整えておくだけで、顔全体がワンランクきれいに見え、若々しさや清潔感も伸びるのです。
このガイドではまず、なぜ額の縁だけが沈んで見えるのかを肌・毛・光の3つの観点から説明し、続けてスプリング・サマー・オータム・ウィンターの4シーズンごとに「この色が最も自然」「ここまでは塗っていい」「ここを塗るとやり過ぎ」という境界線を細かく示します。
さらにパウダー・クリーム・ペンシルといった手持ちのコスメでの代用方法、汗や前髪のこすれで崩れにくくする季節別の固定テク、生え際に白髪や産後の抜け毛がある場合の補強の仕方まで触れていきます。
すぐに実践できるように、最後にはシーズン×部位の表、よくある疑問のQ&A、用語の意味も載せています。
生え際・産毛がくすんで見える理由と補正の基本
生え際やこめかみが暗く見える最大の理由は、顔の中でそこだけ“肌”と“毛”と“ファンデーションの乗り方”が違うからです。おでこの中央は平らで、産毛が少なく、光もまっすぐ当たるので、ファンデーションや下地が想定どおりの色で発色します。
ところが額の縁に近づくほど毛が細く密になり、しかもファンデーションがブラシやスポンジで届きにくくなるため、肌の地色+ファンデのうす膜+毛の色+地肌の透け色がミックスされてしまいます。ここに光が斜めから当たると、毛の陰影が強調され、くすみや凹みとして認識されます。
もう1つの理由は、ファンデーションの明るさは顔の中心に合わせていることが多いからです。トレンドの“トーンアップ下地”や“透明感ファンデ”は中心をきれいに見せるには最適ですが、額の縁まで同じ明るさで塗れていないと、中心と縁の差が強調されてしまいます。
ここにパーソナルカラーと違う温度の影(たとえばブルベ肌に黄み強めのシェーディング)を足すと、**「肌は明るいのに、額の輪郭がくすんで見える」**状態が起こります。つまり失敗の原因は“暗さ”そのものよりも、“温度が違う暗さが隣り合っていること”なのです。
この現象を解消するための基本ステップは3つです。
1つ目は、自分のパーソナルカラーに沿った温度の影色を決めておくこと。肌があたたかく見えるイエベ春・秋なら黄み寄りのベージュやキャメル、涼しく見えるブルベ夏・冬ならローズベージュやクールグレーを選びます。
2つ目は、産毛から肌に向かって塗るのではなく、肌から毛に向かって“近づけていく”こと。毛側から入れると、産毛の隙間に色がたまってしまい、かえって線が出ます。
3つ目は、おでこのカーブ・こめかみ・もみあげの3点を同じ温度でそろえることです。1か所だけ温度が違うと、横から見たときに“そこだけ塗りました”感が残ります。
さらに仕上がりを安定させるには、道具の選び方も重要です。広い面(前髪を上げた額のライン)には少し毛足の長いフェイスブラシ、こめかみやもみあげには小ぶりでコシのあるアイシャドウブラシやコンシーラーブラシ、境目を消すには湿らせて絞ったスポンジと、3種類を使い分けるときれいにぼけます。パウダーだけでうまくぼかせない場合は、同じ色味のクリームやリキッドを先に薄く仕込んでから上にパウダーを重ねる“サンドイッチ方式”にすると、汗や皮脂でもヨレにくくなります。
表:影色補正の基本セット
| 部位 | ねらい | 色の明るさ | 色の温度 | おすすめ形状 | 補足テク |
|---|---|---|---|---|---|
| おでこの生え際 | 顔幅をなめらかに見せる、額を広く見せすぎない | 肌より1トーン暗い | 肌と同じ温度 | パウダー・フェイスブラシ | 中央は塗らず左右だけに三日月状にのせる |
| こめかみ | 影の黄ばみ・青ぐすみを消す、耳掛け時の横顔を整える | 肌と同等〜0.5トーン暗い | 髪と肌の中間温度 | パウダー・スポンジ | 円を描くようにぼかすと線が出ない |
| もみあげ〜耳前 | 肌色と髪の段差をなめらかに、アップヘアで地肌を目立たせない | 髪より0.5トーン明るい | 髪と同じか、わずかに肌寄り | クリーム・リキッド・細ブラシ | 髪をとかす方向と同じ向きに小刻みにのせる |
イエベ春(スプリング)の影色補正
イエベ春は、肌に明るく軽い黄みがあり、血色がふんわりとのって見えるのが魅力です。ところがこの“軽さ”と“明るさ”があるからこそ、額の縁にあるわずかなグレーや青みが余計に目立ってしまいます。
とくに髪色を明るくしているスプリングの場合、根元の地毛が少し暗いと、**「おでこはオークル寄り、産毛はグレー、根元は黒、毛先はベージュ」**という4色が並び、一気に雑然とした印象になります。ここで濃いシェーディングをドンと入れてしまうと、せっかくの若々しさが消えてしまうので、黄色みのあるライトベージュ〜アプリコットベージュを“ふわっと”置くのが最も失敗が少ない方法です。
おでこの丸みに沿って、左右の産毛が密集している部分だけに色を足します。筆先をいきなり毛側に入れるのではなく、おでこの肌色に近い場所に一度ポンと乗せ、そこから毛の方向に向かってクルクルと回し塗りをします。
こうすると、色の中心が肌側にくるので、遠くから見たときに「肌がきれいなまま縁だけなじんでいる」ように映ります。額の一番高いところには何も足さないでおくと、トレンドのツヤ感やハイライトも生きます。
生え際をふんわり見せるポイント
スプリングが失敗しやすいのは、影を“線”で取ってしまうことです。黄みのパウダーを1往復で描くと、どうしても境目がカクンと折れてしまい、額が狭く・子どもっぽく見えてしまいます。
筆を少しだけ寝かせ、円を描くようにくるくる回して乗せると、産毛の上にもうすぐらいの“もや”がかかったようになり、大人の顔つきのまま柔らかく仕上がります。すでにおでこにパールのハイライトをのせている日は、影はさらに薄く、1回でやめるとバランスが良くなります。
コーラル系との連動
スプリングはチーク・リップ・アイメイクをコーラルやサーモンピンクに寄せることが多いので、影色もほんの少しだけコーラルを感じるベージュに寄せると、顔の中で色の温度が揃います。
アイブロウパウダーの一番明るい色や、アイシャドウパレットの“肌なじみピンクベージュ”をこめかみに円を描くようにのせるだけでも、耳掛けしたときの横顔が急にやさしく見えます。頬にツヤ感のあるチークを入れた日は、こめかみをマットで仕上げるとメリハリがつきます。
撮影日の注意点
七五三の付き添いやスタジオ写真、成人式後撮りなど、ライトがしっかり当たる日は、額の中央にパール入りのハイライトをのせて“光の山”を作っておき、縁はマットな影色でなじませると、写真で見たときにおでこが丸く立体的に写ります。影を広く入れすぎるとライトで飛ばされる部分との段差ができるので、左右2〜3cmずつ、丸く入れる程度にとどめるのがコツです。
ブルベ夏(サマー)の影色補正
ブルベ夏は、やわらかい青みと薄い血色が特徴で、顔の中のコントラストが低めです。肌が繊細なので、黄みの強いシェーディングを生え際に使うと、たちまち“おでこだけ黄ぐすみ”が起きます。
逆にグレーやブラウンでしっかり締めすぎると、今度は額が冷たく見えてしまい、頬やリップのやさしさとちぐはぐになります。そこで最も使いやすいのが、ローズベージュ・ラベンダーベージュ・ごく淡いグレージュなど、青みをほんの少し含んだやさしい影色です。肌と同じ“冷たさ”で影を作ることで、額の縁だけが浮くのを防げます。
おでこの縁には、細めのブラシかスポンジを使って、髪の生え際から5mm〜1cmほど内側に向けて色を足し、そこから外へ向けてぼかします。これは“肌から毛へ”の方向です。毛側から中へぼかすと産毛の流れに逆らって粒子が引っかかり、線が出ます。サマーはとくに“線が出ると固く見える”タイプなので、スポンジで円を描くようにぼかすのを習慣にすると失敗が減ります。
境目を線にしない塗り方
サマーは、頬の赤みや口紅の色を生かすためにも、顔の縁はやさしく仕上げておくほうがまとまります。こめかみは縦にぼかすのではなく、丸く→外に→上にと小さな円をいくつも重ねるイメージで。スポンジに残ったファンデーションを最後に軽く重ねると、影色が肌になじんで“もともとこうだった”ように見えます。
オンライン面接対応
画面越しでは青みが飛びやすく、黄みが強い部屋の照明だと肌がオークル寄りに転びます。そんなときは、影色をいつもより半トーンだけ濃くしておくと、額の縁がぼやけず、輪郭がはっきりします。とはいえ黄みに寄せる必要はありません。ローズ〜モーブの範囲で濃淡をつけるだけで、顔色は安定して見えます。仕上げにごく薄くお粉を重ね、テカリを抑えると画面上で均一に映ります。
前髪ありの日
前髪を下ろす日や、外で風が強い日に備えておきたいのが、こめかみと耳前だけの“部分補正”です。前髪があっても、ふとした瞬間にこめかみが見えると、そこに黄みや青ぐすみがあって目立ちます。サマーは特にフェイスラインのやわらかさが魅力なので、耳前だけでも自分の温度の影色でなでておくと、生活感が出にくくなります。
イエベ秋(オータム)の影色補正
イエベ秋は、肌にあたたかな黄みと深さがあり、もともと影が似合うタイプです。落ち着いたブラウンやテラコッタ、オリーブなどの服を着ることが多い場合、額の縁にもそれと同じ温度の影が入っていると、一気に品の良さが増します。
ところが、影を黒やグレーで入れてしまうと、オータムの肌は黄土色っぽくくすんで見えやすく、加えて産後や季節で生え際が少し薄くなっていると“地肌の赤み+グレーの影+黄み肌”が並んで重く見えてしまいます。ここで選びたいのは、キャメルベージュ・カフェオレ・黄みのあるグレージュ・オリーブニュアンスベージュといった、やや温度のある落ち着いた影色です。
おでこの生え際には、スプリングやサマーよりもやや広めに筆を走らせて大丈夫です。額のカーブがなめらかに見えるよう、三日月を描くように外側へぼかします。まとめ髪やタイトなアップにしたとき、ここが“地肌っぽい色”のままだと頭部だけが大きく見えてしまうため、面積を整えるイメージで塗ります。
タイトヘアとの相性
オータムがポニーテールや低い位置のシニヨンにしたとき、こめかみやもみあげが薄いので寂しく見えることがあります。このときは髪を結ぶ前に、キャメル寄りの影色でこめかみと耳前をしっかり埋めておき、最後にブラシで毛流れに沿って軽く撫でます。こうしておくと、どの角度から見られても輪郭が同じ温度でつながり、髪の毛量まで多く見えます。
ゴールドアクセと揃える
ゴールドのピアスやイヤーカフ、眼鏡のフレームなど、黄みのある金属を顔まわりにつける日こそ、影色も同じ温度に寄せると高級感が出ます。逆にここをグレーで済ませてしまうと、アクセだけが浮いてしまうので注意します。首元にベージュ〜キャメル系のストールを巻くときも、額の縁を同じ色で整えておくと統一して見えます。
汗・皮脂対策
オータムは皮脂が出やすく、パウダーだけで仕上げると夕方に色が濃く沈むことがあります。そこでおすすめなのが、まずクリーム・スティックタイプのシェーディングをごく薄く塗り、上から同じ温度のパウダーを重ねる二度づけです。表面を無色のルースパウダーで軽く押さえれば、タイトなヘアにしても崩れにくくなります。色を足しすぎたときは、ティッシュで一度おさえてからフェイスパウダーを重ねると地肌っぽさが戻ります。
ブルベ冬(ウィンター)の影色補正
ブルベ冬は、顔立ちにコントラストがあり、目・眉・口のパーツがはっきりしているのが魅力です。そのため、額やこめかみのラインも真っ直ぐ・くっきりと整っていると、いっそう洗練されて見えます。
しかしここでやりがちなのが、**“髪と同じ黒で生え際を塗りつぶす”**ことです。ウィンターは肌が青白く見えやすいため、黒で塗るとそこだけが沈んでしまい、“ヘアラインを描きました”という仕上がりになりがちです。
そこで使いたいのは、グレー・チャコール・冷たいトープなど、髪よりわずかに明るくて、かつ冷たい温度の影です。黒より半トーン明るいだけで、肌との段差がふわっとぼけます。
おでこの縁をすべて囲む必要はありません。髪の生え方がまばらなところ、産毛で肌色が透けているところだけに細く入れ、指先やスポンジでトントンと叩き込んで境目をなじませます。ウィンターはラインがはっきりしている方が似合うので、ぼかしすぎて消えてしまわないように、3回に分けて足す→確認するを繰り返すと失敗がありません。
前髪なしスタイルの日
前髪を上げる日や、オールバック・ハーフアップなどで生え際が全面的に見える日は、いきなり広く塗らず、まずは薄く一周なぞってから、足りないところだけを足します。ライトの位置によって影の濃さが変わるので、できれば鏡を2方向に置いて確認します。写真を撮る日は、鼻筋と額中央にハイライトをやや強めに入れ、額の縁の影との明暗差をしっかりつけると、顔が小さく立体的に写ります。
写真・動画対応
白背景や真っ黒なトップスで撮影すると、額の影が思ったより濃く出てしまうことがあります。そんなときは、影色を塗ったあとに無色のパウダーを上から軽く重ねて“質感を揃える”と、カメラで見たときに一体化して見えます。動画では動きに合わせて影がちらつくので、パウダーのあとにスポンジで押さえるひと手間を加えると、にじみが抑えられます。
メンズにも応用可
ウィンターの男性で、こめかみやM字部分の毛が少し薄い人の場合、地肌が白く透けて顔が大きく見えることがあります。このときも黒で塗るのではなく、髪より半トーン明るいクールグレージュで産毛をなぞると、自然に埋まって見えます。会社用のナチュラルメイクでも違和感が出ません。
Q&A
Q1. 汗をかきやすい季節でも落ちないようにするには?
A. 先にごく薄くフェイスパウダーで生え際とこめかみをさらっとさせておき、その上からパーソナルカラーに沿ったパウダーの影色をのせます。さらに仕上げにもう一度無色のパウダーで軽く押さえると、髪の摩擦でも崩れにくくなります。屋外行事などで大量に汗をかく日は、クリームやスティックでごく薄く下地の影を作っておくとさらに安心です。
Q2. 前髪をおろす日も毎回塗るべき?
A. 前髪を下ろす日は、生え際を広く塗る必要はありません。見えやすいこめかみと耳前だけに部分的に影色を足しておくと、ふとした瞬間に髪をかき上げたときも色がそろって見えます。前髪の隙間からおでこが見えるタイプのヘアスタイルなら、額の中央は塗らず、左右2〜3cmだけにのせると自然です。
Q3. 手持ちのシェーディングが黄みすぎ/青みすぎです。買い替えないとだめ?
A. 買い替えなくても、同じシーズン向けのアイブロウパウダーやアイシャドウパレットの中間色で十分代用できます。シェーディング専用かどうかよりも、自分の肌と同じ温度であることが最優先です。たとえばサマーならモーブ寄り、ウィンターならチャコール寄り、スプリングならコーラルベージュ寄りを選ぶと失敗が減ります。
Q4. オンライン会議でライトを使うと境目が再び出てきます。
A. ライトを真正面から強く当てると、額の産毛が白く光ってしまい、そこだけ色が飛びます。影色を入れた日は、ライトをやや斜め上から当てるか、照度を一段落としてPC側の明るさで調整してください。髪にツヤがあると光を反射して境目が見えやすいので、分け目にパウダーを少しはたいておくのも有効です。
Q5. 男性でも使えますか。
A. もちろん使えます。男性は耳前やこめかみの産毛が薄く、そこだけ地肌が見えて輪郭が大きく見えることがあります。肌と同じ温度のベージュ〜グレージュを細いブラシでさっとなでるだけで、顔が締まり、ヘアセットもきれいに見えます。あくまで“地肌っぽく見せる”のが目的なので、色は少しずつ足してください。
用語辞典
影色:肌の明るさを落とさず、境目だけをなじませるための、肌より少し暗い色。シェーディングよりも弱く、パーソナルカラーと同じ温度に寄せて選ぶと自然に仕上がる。
こめかみ補正:こめかみのくぼみや地肌の透けを、髪と同じ方向・同じ温度の色で埋めること。耳掛けやアップスタイルの横顔を整えるためのテクニック。
温度を合わせる:色を黄み寄りか青み寄りかでそろえること。肌・髪・眉・影色の温度がそろうと、同じ明るさでも顔全体がすっきり見える。

