「入れた瞬間は細く見えるのに、数時間で土っぽい」「写真では頬だけ暗く沈む」「小鼻の横に線が残って老け見え」——その“濁り”はセンス不足ではありません。パーソナルカラー(肌の温度)に対する《色・明度・彩度・灰み方向・質感》と、置き場所・長さ・面積・筆圧の噛み合わせが少しずれているだけ。結論は3行で完結します。
①灰みの向きを肌とそろえる(黄ならオリーブ灰/青ならモーブ灰)②明度差は肌より−0.5〜−1.5トーンで管理③短線+薄面で“最小面積”に置き、境界だけ消す。この手順に切り替えるだけで、誰でも濁らない影・小顔・立体が安定します。
この記事は春夏秋冬タイプ別に安全色・混色比・位置座標・長さ・筆圧・ぼかし方を数値化し、顔型・髪色・眉・前髪・眼鏡・季節・TPO・撮影距離まで完全対応。
原理と手順:濁らせない影の方程式(色→位置→ぼかし→固定)
色設計(明度差・彩度・灰み方向・温度)
濁り回避の四条件は、1) 明度差=肌より−0.5〜−1.5、2) 彩度=低〜中(高彩度は赤/黄が前に出て濁る)、3) 灰み方向=肌の温度と同方向(イエベ=オリーブ灰、ブルベ=モーブ灰)、4) 質感=微粒子マット〜半マット。迷ったらトープ(灰×茶)を出発点に1割だけ温度補正します。
表:シェーディング設計の四要素と安全域
| 要素 | 安全域 | 強めたとき | 弱めたとき | 失敗サイン |
|---|---|---|---|---|
| 明度差 | 肌−0.5〜−1.5 | くっきりだが沈む | ぼやける | 土っぽい/メリハリ過剰 |
| 彩度 | 低〜中 | 赤/黄が前に出る | 平板だが清潔 | 赤ぐすみ/黄ばみ |
| 灰み方向 | 肌と同方向(黄or青) | 温度不一致で濁る | なじむが弱い | フェイスラインがくすむ |
| 質感 | 微粒子マット〜半マット | 毛穴を拾いにくい | 反射不足で平坦 | 粉っぽさ/線残り |
配置基準(短線+薄面=ハイブリッド)
入れるのは3ゾーンだけ。1) こめかみ下→頬骨下の短線(2.5〜3.0cm)、2) エラ内側の逆三角“薄面”(直径2.5cm以内)、3) 鼻根〜鼻先手前の極細線(1.0〜1.5cm)。小鼻外側・口角横・頬中央・法令線の谷は“影の溜まり場”なので乗せません。
表:配置×長さ・面積・筆圧の目安
| ゾーン | 形 | 長さ/面積 | 筆圧 | ぼかし方向 | ねらい |
|---|---|---|---|---|---|
| 頬骨下 | 短線 | 2.5〜3.0cm | 弱→中 | 外上へ3回 | リフト見え |
| エラ内側 | 薄面 | 直径2.0〜2.5cm | 弱 | 下→上へ扇状 | 角の緩和 |
| 鼻根 | 極細線 | 1.0〜1.5cm | ごく弱 | 下へ1回→指で消す | 影を“示す”だけ |
ぼかし・固定(境界だけ消す)
境界1cmだけを小扇ブラシで一往復。面全体は触らない。仕上げは**透明粉を“息で鳴らない量”**だけ乗せ、冷ミスト1プッシュで粒子を寝かせると線が消えます。
粉・練り・液の使い分け
表:製品タイプ別の安定度と向き
| タイプ | 仕上がり | 崩れ方 | 向く肌/場面 | コツ |
|---|---|---|---|---|
| 粉 | さらり/均一 | 乾燥で粉感 | 脂性/夏/マスク | 量は極少、扇で境界のみ |
| 練り | 溶け込む | 皮脂で寄る | 乾燥/冬/屋内 | 指で点置き→粉で薄く固定 |
| 液 | 薄膜/透け | 速乾でムラ | 写真/夜 | 小丸ブラシで短線だけ描く |
混色レシピ(迷ったらここから)
表:出発点→温度補正の混色比
| ベース | イエベ補正 | ブルベ補正 | 使い分け |
|---|---|---|---|
| トープ7 | +オリーブ灰3 | — | 黄ぐすみが出にくい春/秋 |
| グレー7 | — | +モーブ灰3 | 青白さを濁らせない夏/冬 |
| ブラウン6 | +オリーブ灰4 | +モーブ灰4 | 髪色が濃い・遠目の撮影 |
パーソナルカラー別:イエベ(春・秋)の最適色と入れ方
イエベ春(スプリング)——軽さを保つ黄寄りの影
安全色:オリーブトープ/蜂蜜ベージュの灰/淡カラメル。明度差=肌−0.5〜−1.0、彩度低、質感=微粒子マット。混色はブラウン7:オリーブ灰3から。赤みが出た日は灰を+1。
入れ方(座標つき):
- 頬骨下:黒目外側の真下から外上へ2.5cm。終点は耳珠の手前。扇で境界1cmだけ払う。
- エラ:逆三角の薄面(直径2.0〜2.5cm)。外へはみ出さない。
- 鼻:鼻根1.2cmのみ。鼻先・小鼻には入れない。
連動ルール(チーク/口紅/前髪):チークがピーチなら灰の比率+1、口紅が鮮やかな日は長さ−0.3cm、前髪が厚い日は明度差−0.5。
NG→OK:テラコッタで赤ぐすみ→オリーブ灰へ差し替え。広い面→短線+薄面に縮小。
イエベ秋(オータム)——深みを活かす黄土の影
安全色:オーク/アンバーグレー/セピアの灰。明度差=肌−1.0〜−1.5、質感=微粒子マット〜半マット。混色はブラウン6:オリーブ灰4。頬が沈む日は明度+0.5。
入れ方(座標つき):
- 頬骨下:外1/2のみに3.0cmの直線寄り短線。中央は開ける。
- エラ:フェイスライン内側3mmで雫型薄面。輪郭の外へ出さない。
- 鼻:鼻根1.5cm→指で3回タップして線感を消す。
連動ルール(アクセ/服色):金色アクセや濃色服の日は明度+0.5、銀色アクセや淡色服の日は灰の比率+1で品よく。
表:イエベ(春/秋)シェーディング早見
| タイプ | 安全色 | 明度差 | 質感 | 主配置 | 追加メモ |
|---|---|---|---|---|---|
| 春 | オリーブトープ/蜂蜜Be灰 | 肌−0.5〜−1.0 | 微粒子マット | 頬骨短線・エラ薄面・鼻根 | 赤み日は灰+1/長さ−0.3cm |
| 秋 | オーク/アンバー灰/セピア灰 | 肌−1.0〜−1.5 | 微〜半マット | 外1/2短線・雫薄面・鼻根 | 明度+0.5で沈み回避 |
パーソナルカラー別:ブルベ(夏・冬)の最適色と入れ方
ブルベ夏(サマー)——青みを濁らせない冷灰の影
安全色:モーブグレー/ローズグレー/冷トープ。明度差=肌−0.5〜−1.0、彩度低、質感=微粒子マット。混色はグレー7:ブラウン3、黄ばむ日はグレー+1。
入れ方(座標つき):
- 頬骨下:弧ではなく短線(2.5cm)。下へ落とさない。終点は耳珠の手前。
- エラ:縦長の薄面で角を跨ぐように一刷け。
- 鼻:鼻根1.0〜1.2cm。眉間に届かせない。
連動ルール(チーク/口紅):ローズ系チークなら灰は既定、青みの強い口紅の日は長さ−0.3cmで上品に。
NG→OK:黄系で土感→モーブ灰へ。C字影→短線化で軽く。
ブルベ冬(ウィンター)——対比を活かす冷たい直線の影
安全色:チャコールグレー/スレート/クールトープ。明度差=肌−1.0〜−1.5、質感=微粒子マット〜半マット。混色はグレー8:ブラウン2。強すぎる日は明度+0.5。
入れ方(座標つき):
- 頬骨下:直線寄りに3.0cm、外上へ。中央は開ける。
- エラ:内側だけを細長く。フェイスラインを越えない。
- 鼻:鼻根1.5cm→指で1回タップで線感を残さない。
連動ルール(服色/前髪):白・黒・原色の日は明度+0.5で遠目に負けない。前髪が軽い日は長さ+0.3cmでバランス。
表:ブルベ(夏/冬)シェーディング早見
| タイプ | 安全色 | 明度差 | 質感 | 主配置 | 追加メモ |
|---|---|---|---|---|---|
| 夏 | モーブ灰/ローズ灰/冷トープ | 肌−0.5〜−1.0 | 微マット | 短線・縦薄面・鼻根短 | 黄ばみ日は灰+1/長さ−0.3cm |
| 冬 | チャコール/スレート/クールトープ | 肌−1.0〜−1.5 | 微〜半マット | 直線短線・細長薄面・鼻根 | 明度+0.5/量−30% |
影の地図:顔型・骨格・距離・光で変える“最小面積”
顔型別(丸/面長/逆三角/四角)
- 丸顔:頬骨下**+2mm上に短線、エラは逆三角の上辺のみ**。鼻は入れ過ぎない。縦の比率を強化。
- 面長:短線を水平気味に、エラは外へ逃がす薄面。鼻は短めで縦比率を緩和。
- 逆三角:短線は外下へ2.5cm、エラは下重心を意識。顎先は触らない。
- 四角:角を跨ぐ縦薄面で角を和らげ、短線は外1/2に限定し中心を空ける。
鼻・唇下・生え際・首の連携
- 鼻幅が気になる:鼻根1.0〜1.2cmのみ。小鼻外は立入禁止。
- 唇下(影の谷):明度差−0.5で米粒大を点。線にしない。
- 生え際:左右こめかみだけに1.5cm短線で額を整える。
- 首との段差:フェイスライン内側3mmに極薄面で切り替えが消える。
撮影距離・照明(自撮り/上半身/全身・屋内外)
表:距離・照明×設定早見
| 状況 | 明度差 | 長さ/面積 | 量 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 自撮り(至近) | −0.5 | 1.8〜2.2cm | −10% | 線短く・面最小 |
| 上半身 | −0.7〜−1.0 | +0.2cm | ±0% | 目元との対比を確保 |
| 全身 | −1.0 | +0.3cm/面+10% | ±0% | 遠目のぼやけ対策 |
| 屋外直射 | −0.5〜−1.0 | 既定 | −20% | 強光で濁り防止 |
| 電球色 | 既定 | 既定 | 既定 | 灰+1で黄ばみ抑制 |
| 昼白色 | −0.5 | 既定 | 既定 | 引き締め効果 |
髪色・眉・前髪・眼鏡との連動(当日補正の要)
髪色(黒/茶/ハイトーン)
- 黒髪:灰+1(モーブ/チャコール寄り)で影を軽く。長さ−0.3cm。
- 茶髪:既定。黄みが強い日はオリーブ灰+1。
- ハイトーン:明度差−0.5で控えめ、量−20%。影が浮きやすいので薄面>短線。
眉・前髪・眼鏡
- 眉が強い日:長さ−0.5cm、明度差−0.5で主張の取り合いを回避。
- 厚め前髪:頬骨短線+2mm上へ。影が前に出過ぎない。
- 太フレーム眼鏡:量−20%、境界ぼかし+1往復。
表:連動クイック表
| 条件 | 変更点 | 目的 |
|---|---|---|
| 黒髪 | 灰+1/長さ−0.3cm | 影の軽量化 |
| ハイトーン | 明度差−0.5/量−20% | 影浮き防止 |
| 眉強 | 長さ−0.5cm/差−0.5 | 顔中央の混雑回避 |
| 太フレーム | 量−20%/扇+1往復 | 重心調整 |
運用・リカバリー・チェックリスト・Q&A・用語辞典
失敗→即リカバリー(現場で直す)
- 土っぽい/濁る:灰を+1(オリーブ灰orモーブ灰)、粉量−30%、境界だけ扇。
- 線が残る:筆圧−1段、短線−0.5cm、冷ミスト→スポンジ角でなじませる。
- 黄ばみ:モーブ灰へ1割シフト。口紅が暖色なら長さ−0.3cm。
- 赤ぐすみ:オリーブ灰へ1割シフト。チークが強い日は量−20%。
- 小鼻の影:鼻根限定に戻す。小鼻外は立入禁止。
表:NG→OK変換表
| NG症状 | 原因 | 即リカバリー |
|---|---|---|
| 土っぽい | 彩度/面過多 | 灰+1・量−30%・境界のみ扇 |
| 線が浮く | 筆圧/長さ過多 | 筆圧−1・−0.5cm・冷ミスト→スポンジ |
| 黄ばみ | 黄成分過多 | モーブ灰へ1割移行 |
| 赤ぐすみ | 赤成分過多 | オリーブ灰へ1割移行 |
| 小鼻の影 | 置き場所ミス | 鼻根限定・小鼻外は触らない |
出発前の10チェック(30秒)
- 頬中央に影の面が広がっていない
- 短線は2.5〜3.0cmで止まっている
- 境界は1cmだけぼかした
- 明度差は肌−0.5〜−1.5に収まっている
- 灰み方向は肌の温度と一致
- 小鼻外には一切触れていない
- 冷ミストで粒子を寝かせた
- 髪色/眉/前髪/眼鏡の補正を反映
- 30cmの鏡で左右差を確認
- 服色と照明に合わせて明度±0.5を調整
Q&A(よくある疑問)
Q1. ブロンザーと同じでいい? 別物。ブロンザー=色味で温かさ、シェーディング=無彩色寄りの影。混用すると濁ります。
Q2. 眉や目元が強い日は? 長さ−0.5cm・明度差−0.5で競合を回避。
Q3. マスクで線が取れる。 粉→冷ミスト→粉のサンドで密着、線は短く。
Q4. どのブラシが無難? 斜めカット中(30〜35mm)と小扇の二本で十分。
Q5. 色が決められない。 トープを基点に、イエベ=オリーブ灰+1割/ブルベ=モーブ灰+1割へ。
Q6. 二重顎を消したい。 影で覆うより姿勢・顎先のハイライトを優先。影は生え際の左右1.5cm短線のみ。
Q7. 夕方にくすむ。 量−20%で午前に軽く、口角上の点ハイライトを足す。
Q8. 皮脂でヨレる。 粉主役+冷ミスト、ティッシュで押さえ取ってから重ねる。
Q9. 写真で平たい。 眉下に5mm短線を追加、頬骨線+3mmで立体を回復。
Q10. 海外製の濃色粉を使いたい。 量を1/3から。扇ブラシ必須。
用語辞典(やさしい言い換え)
灰(グレー):色味を弱めて影に近づける要素。黄寄り=オリーブ灰、青寄り=モーブ灰。
トープ:灰×茶の中間色。出発点に向く。
短線:2.5〜3.0cm内の短い影。方向を示す“骨”。
薄面:直径2.0〜2.5cmの薄い広がり。量を増やさず面を足す“肉”。
筆圧−1段:今の力からひとつ弱める意識。線が残りにくい。
扇ブラシ:境界だけを消すための扇形ブラシ。
耳珠(じじゅ):耳の入口の丸い部分。頬骨の終点の目安。
まとめ シェーディングは“盛る”のではなく影を設計する作業です。肌の温度に合う灰み方向×明度差−0.5〜−1.5×低〜中彩度を守り、短線+薄面で最小面積、境界1cmだけを消す——この順序で濁りゼロの影・小顔・立体が安定します。迷った日はトープを基点に1割だけ温度補正、長さは2.5cmで止める。今日の一筆が、仕上がりの天井を上げます。

